2013年09月20日

朝松健『崑央の女王』

〈2013年読書感想13冊目〉


 インテリジェントビルを舞台に繰り広げられる邪神との戦いと惨劇を描いたアクション・ホラー小説です。〈クトゥルー神話〉としての要素も色濃いのでその筋の人ならば楽しめる筈。但し,H.P.ラヴクラフト自らの手によるクトゥルー神話小説とは雰囲気が異なる点は要注意。題名ともなっている崑央の女王は所謂ヴァルーシアの蛇人間の系列に属する邪神の一柱だと思われますが,これは作者が想像した神柱でありましょう。“ヨス=トラゴン”の名前が登場したことには頬が緩みました。また,現代のインテリジェントビルでの物語と日中戦争時に起きた物語のふたつの時間軸が交錯するという構成も個人的にはかなり好み。20世紀初頭の混迷した世界情勢とクトゥルー神話との相性は格別であります。そもそも,クトゥルー神話の誕生からして,その年代なわけですしね。主人公の美貌の分子化学者・杏里も然ることながら,中国人の老科学者リー博士の存在感が抜群に良い。当初は胡乱な雰囲気を漂わせていますが,後半は完全に彼女の動向に魅せられていました。物語としてはやや物足りない部分も感じますが,クトゥルフ神話アクション小説として充分に楽しめる作品ではあります。如何にも作者らしい魔術的な要素も個人的にはかなり楽しめました。崑央の女王と人間との戦いの発端であると捉えることも出来ますので,是非とも戦いの顛末を描いて欲しいものであります。
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posted by 森山 樹 at 06:26| Comment(0) | TrackBack(0) | 感想