2013年10月24日

田中文雄『邪神たちの2・26』

〈2013年読書感想22冊目〉
田中文雄『邪神たちの2・26』


 〈The Cthulhu Mythos Files〉に収められた一冊。昭和初期の日本を舞台に2.26事件の陰で密かに行われていた青年将校たちと邪神の眷属との熾烈な戦いが描かれます。物語としては非常に楽しい。クトゥルー神話と2.26事件の相性が凄まじくよろしい。〈クトゥルー神話〉はもともとも作者であるH.P.ラヴクラフトによる宇宙的恐怖を感じさせる作品が一番好みなのでありますが,二次創作として考えた場合には本書のように実在する人物や歴史上の大事件に絡めた作品が似つかわしく思えます。やや気になったのは北一輝を始めとする所謂皇道派の陸軍将校が多分に美化されており,その反対に2.26事件において襲撃の対象となった政治家たちが邪神の眷属の影響を受けた悪しき人間という描かれ方が為されていたということ。勿論,政治的な意図は全くないと思いますが,やや偏りが強すぎるように思えたのが残念でありました。〈クトゥルー神話〉としては普通に面白い。H.P.ラヴクラフトその人が重要な人物として登場するのも好みであります。また,主人公である海江田清一の主観による部分は濃密な描写が,歴史的展開を語る部分は淡々とした描写が施されているのが如何にも印象的であります。そして,物語の末尾を飾るエピローグの寂寥たる雰囲気が余韻を残します。〈クトゥルー神話〉と2.26事件というふたつの狂気の親和性の妙に酔う作品でありました。出口王仁三郎や北一輝ら昭和を代表する怪人たちの登場も歴史趣味者としては実に楽しうございました。大満足であります。
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posted by 森山 樹 at 21:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 感想