2014年02月25日

森晶麿『黒猫の薔薇あるいは時間旅行』

〈2013年読書感想36冊目〉
森晶麿『黒猫の薔薇あるいは時間飛行』


 〈黒猫〉シリーズの第3作目。渡仏した黒猫と日本に残った付き人のふたりがそれぞれに出逢った謎が描かれます。相変わらず,ミステリィとしても恋愛小説としても読み応えは十分。端正な物語が実に魅力的であります。付き人側の「落下する時間たち」と黒猫側の「舞い上がる時間たち」はそれぞれ完全に独立した別個の物語でありながら,一瞬その軌跡が交錯するのがたまらなく美しい。また,黒猫にはマチルド,付き人には戸影と,新たに登場する人物が物語を彩るのも楽しく思います。何よりも遠く離れた場所にありながら,心は徐々に近付いていく黒猫と付き人の距離感の麗しさが素晴らしい。露骨に表面に出すことはありませんが黒猫の付き人に対する友情以上の感情が切なさともどかしさを刺激します。一方で黒猫への好意をはっきりと自覚した付き人が今後如何なる行動に出るのかも楽しみでなりません。ふたりを師事する唐草教授の秘められた愛が語られた今作に触れたからこそ,その行く末が幸せなものであることを祈らずにはいられません。ミステリィとしてもエドガー・アラン・ポオの『アッシャー家の崩壊』を根底とした物語に引き寄せられます。様々な愛の形が彩る物語はほろ苦さとともに美しさも感じさせてくれます。この美学趣味がちりばめられた雰囲気こそが最大の魅力と言ってもいいのでしょう。黒猫と付き人,ふたりの変わらなさそうで少しずつ変わりゆく関係が今後如何に描かれるのか楽しみであります。最終盤での黒猫と付き人の触れ合いは狂おしいまでの美しさを感じました。ふたりの関係が微笑ましく,愛おしく,羨ましいです。
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posted by 森山 樹 at 22:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 感想