2014年07月06日

ピーター・トレメイン『翳深き谷(下)』

〈2014年読書感想3冊目〉
ピーター・トレメイン『翳深き谷(下)』


 キリスト教受け入れを拒む禁忌の谷グレン・ゲイシュを舞台とした連続殺人事件の謎に迫る修道女フィデルマの活躍を描く作品です。フィデルマと同じくキリスト教布教の為にグレン・ゲイシュを訪れた修道士ソリンが殺害されることで物語は大きく動きます。ソリン修道士殺害の容疑者としてフィデルマ自らが拘束されてしまうという展開も興味深い。彼女の無罪を証明する為に尽力するエイダルフの活躍も見事でありますが,それよりもグレン・ゲイシュのドゥルイドであるムルガルの存在感があまりにも素敵すぎます。異なる信仰を持つということで悉くフィデルマとは対立するのですが,その論理的で冷静な知性はあまりにも魅力的。論敵でありながら,公正な立場からフィデルマの協力者といった立ち位置も見せてくれます。また,女傑オーラも意外に好感度が高い。逆に最初はキリスト教を受容する為に理解者的な立場であったラズラが態度を豹変させることに面白さも感じます。そもそもの事件の発端であったグレン・ゲイシュの入り口で見つかった三十三体の若者の遺体を巡る謎とソリン修道士を始めとする連続殺人事件の謎,このふたつの事件を鮮やかに解き明かすフィデルマの推理がたまらなく楽しいです。但し,上巻冒頭に誤導の為に置かれた導入篇はやや露骨過ぎた感があります。消去法で直ぐに真犯人が分かってしまいますからね。尤も,だからといって物語の面白さを損ねているわけではありません。中世アイルランドを舞台とした独特の雰囲気を味わえる正統派のミステリィとして存分に楽しい作品でありました。
posted by 森山 樹 at 15:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 感想
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