2008年06月03日

薩摩秀登『物語チェコの歴史』

2008年39冊目
物語チェコの歴史―森と高原と古城の国 (中公新書)
物語チェコの歴史―森と高原と古城の国
  • 発売元: 中央公論新社
  • 価格: ¥ 861
  • 発売日: 2006/03

 中欧史あるいは東欧史は大好きなのですが,マイナーゆえに読みたくなるような本が見つからないのが難点です。専門書だと高価になってしまうのが痛い。本書は通史というには物足りませんが,チェコ史を彩る人物伝としては楽しく読むことができます。何より新書というのが嬉しいですね。

 モラヴィアからチェコスロバキア共和国に至るまでの所謂チェコの歴史を,時代を彩った人物を中心に描いた歴史読み物です。全10章で扱われているのは順にモラヴィア王国,プシェミスル朝と聖女アネシュカ,ルクセンブルク朝とカレル4世,フス戦争,ペルンシュタイン家,出版業者メラントリフの生涯,プラハ大学,モーツァルトとプラハ,チェコ内国博覧会,チェコスロバキア共和国となっています。個人的にはフス戦争におけるヤン・ジシュカやプロコプらターボル派の英雄たちの姿が描かれることを期待していたのですが,僅か一行で片付けられてしまったのが非常に残念。ヤン・フスが後のチェコに残した影響についてはなかなか面白かったです。それにしても1415年のコンスタンツ公会議で異端宣告されたフスがチェコでは民族の英雄として扱われ,1999年にはヨハネ・パウロ2世によって事実上の名誉回復が為されているのは知りませんでした。フス戦争の過程も面白く,この辺りは改めて調べてみようと思います。また,聖女アネシュカを中心に据えたプシェミスル朝の歴史が描かれる第2章を一番興味深く楽しみました。聖女としての存在感も然ることながら,チェコ王家の一員として政治的外交的に兄王を支援する彼女の姿は印象的です。自らが望んだこととはいえ,一介の修道女で生を終える器ではなかったということでしょう。伊達にハンガリー王国最盛期の王ベーラ3世の孫娘ではないということでしょうか。彼女を中心とした当時のプシェミスル朝についても改めて知りたく思います。
 全体的にハプスブルク帝国以前のチェコを扱った章のほうが内容が濃くて楽しむことができました。ハプスブルク家の支配下ではチェコは単なる帝国の一地方としての扱いでしかありませんからね。そんな中,面白かったのはチェコ内国博覧会を巡る物語。一見華やかな博覧会の内実はチェコ人とドイツ人の対立の構造だったということは19世紀の民族史観が大きく影響しているのでしょう。これは最終章のチェコスロバキア共和国の解体にもやがて繋がっていきます。そんな中,分裂した欧州が再びヨーロッパ連合として統合されつつあることに歴史の皮肉も感じます。
 それほど一般的ではないチェコの歴史を扱った本ということで貴重な存在ではありますが,やはり物足りなさは感じてしまいます。ただ,巻末には日本語で読める参考文献一覧があるのが嬉しい。あくまで入門書としての歴史読み物との位置づけで,興味を持てばこの文献に進んでいけばいいと思います。
 フス宗教改革を扱った同著者の『プラハの異端者たち』は面白そう。これにはヤン・ジシュカは取り上げられているかしら。
posted by 森山 樹 at 06:54| Comment(0) | TrackBack(0) | 感想
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