2010年02月13日

津原泰水『ブラバン』

〈2010年感想 2冊目〉
ブラバン (新潮文庫)
ブラバン
  • 発売元: 新潮社
  • 価格: ¥ 620
  • 発売日: 2009/10/28

 吹奏楽部の再結成を主軸とした青春回顧小説。郷里のひとつである広島が舞台と言うこともあって,自分にとっても懐かしい想いに駆られる小説です。広島弁で綴られる会話が温かく懐かしい。
 ちなみに電車内で読んでいて本を忘れて来てしまいました。手元にあるのは改めて買ったもの。その意味でも想い出深い小説となりました。

 敢えて分類するならば青春小説ということになるのでしょうけれども,雰囲気的には青春回顧小説といった感じ。目映いばかりに輝いていた高校時代を回顧する主人公たちの姿がほろ苦く切なく,けれどもどこか温かくて羨ましい物語です。ある出来事を契機に25年ぶりにブラスバンドを復活させる為に奔走する主人公と彼が送った高校時代の吹奏楽部での出来事が描かれます。各章が名曲から採られているのも雰囲気があります。登場人物は多いのですが,それぞれに個性豊かな為に混同することは殆どありませんでした。残念だったのは最終盤の展開です。中盤までは本当に面白かったのに,些か興醒めしてしまうものを感じました。意外性は結構なのですが,爽快感までも失ってしまったように思います。確かに現実的ではあるのでしょうけれども,素敵な雰囲気のまま終わって欲しかった。そう思えて仕方がありません。それだけに惜しく思えます。

 高校時代の吹奏楽部で繰り広げられる様々な出来事や人間模様は実に楽しい。そして,25年という年月を経た現在との対比の大きさを想わせます。しかし,それは必ずしも現在が暗く翳ったものということではありません。高校卒業後,様々な道を歩む吹奏楽部員の中には成功した者も失敗した者も失踪した者も亡くなった者もいます。運命の変転と言ってしまうのは簡単ですが,そこに至るまでの事情は様々なもの。けれど,一応にして言えるのは,懸命に生きてきたということ。安直に彼らに同情することは失礼というものでしょう。そして,かつては同じ道を歩み,現在は異なる人生を歩む部員たちが改めてひとつになろうと行動することに限りのない浪漫を感じてしまいます。共有しうる想い出があるというのが実に羨ましい。登場人物はそれぞれに魅力を有していますが,個人的にはやはり人気者だった辻がお気に入り。右腕を失いながらも飄々と生きる彼の姿に強さを感じます。そして,高校時代の彼女を今も想う姿が切ないです。また,高校時代は不良で途中で退部した永倉の音楽に対する真摯さも胸を打ちます。長じての姿も実に格好いい。吹奏楽部の顧問で後に余りにも意外な姿で登場する安野先生も嫌いじゃありません。寧ろ,現在の安野先生は好きな種の女性と言ってもいいでしょう。少なくとも彼女も吹奏楽部の重要な一部分であったように思います。

 非常に優れた青春回顧小説として堪能しました。それだけに結末の弱さは余りにも大きな瑕疵に思えてしまいます。尤も,こういう終わり方もありだとは思うのですけれども。それでも予定調和的な爽快感を味わえれば,もっと素敵な読後感だったことでしょう。主人公たちと同じ年齢になった時にもう一度再読したくなる物語でした。その時にはまた違う感慨を味わうのかもしれません。

 余談。会話はほぼ広島弁で語られるので苦手な人は苦手かもしれません。個人的には方言で語られる物語は苦手なのですが,郷里の広島ということもあって本作品は違和感なく受け容れることが出来ました。
posted by 森山 樹 at 21:40| Comment(2) | TrackBack(0) | 感想
この記事へのコメント
こんにちは。私、この本のストーリや内容を見てみたら、見たくなりました。吹奏楽をやっているという事もあるので、買いたいと思います。ありがとうございました。
Posted by 杏里 at 2011年03月05日 20:21
>杏里さん
コメントありがとうございます。
大変面白い小説ですので,楽しまれることを期待します。
吹奏楽経験者からだとまた違った感慨をいだかれるかもしれませんね。
Posted by 森山 at 2011年03月07日 06:54
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