2010年04月21日

畠中恵『まんまこと』

〈2010年感想15冊目〉

まんまこと (文春文庫)
まんまこと
  • 発売元: 文藝春秋
  • 価格: ¥ 580
  • 発売日: 2010/03

 江戸を舞台にした軽めのミステリ小説。同作者の〈しゃばけ〉と被りますが,読後に受ける印象もほぼ同一のもの。差異を挙げるならば,本作には妖怪が登場しないことくらい。そんなわけで〈しゃばけ〉が好きな人であれば問題なく受け容れることが出来るのではないかと思います。個人的には作者の作風の狭さを示しているようで気になりましたけれど。

 神田の町名主の跡取り息子・麻之助を主人公に据えた連作ミステリ短篇集。面白いのは面白いのだけれども,良くも悪くも畠中恵作品という印象。一応,登場人物の設定などは意識的に変えて来ている節は見受けられます。但し,意外性は全くありません。手堅い作りではあるのですけれど,小さくまとまり過ぎているように思います。尤も,よく言えば安心して読めるということでもあります。ほろ苦さと切なさの残る各篇もそれなりに好み。麻之助とその悪友の清十郎と吉五郎がいずれも男前というのはやや女性向けに過ぎる感がありますが許容範囲の内でしょう。ただ,どうしても〈しゃばけ〉と被ってしまうのは仕方がありません。固有名詞を変えれば〈しゃばけ〉の中に収められても全く不思議ではなさそう。これはあまり良いこととは思えません。

 収録されている6篇はどれも似たり寄ったりの出来で突き抜けて好きな作品というのはありません。敢えて挙げるならば「万年,青いやつ」が一番好きで,次いで「柿の実を半分」と「こけ未練」といった感じかな。どれも結末が容易に想像し易いのは残念ですが,王道を行く作品に仕上がっています。騙される爽快感には欠けますが,江戸時代を舞台とした人情ものとしては素直に満足のいく作品ばかりです。麻之助がお由有に寄せる想いは切ないのだけど,物語を考えればあまり引っ張らない方がいいのかなとも。麻之助が放蕩に走った理由は分かり易過ぎかな。殆ど隠しているように思えなかったから計算だとは思うけれど。個人的にはお由有よりも一途なお寿ずにこそ魅力を感じてしまいます。麻之助は覇気に欠けるきらいがあってあまり好きではありません。清十郎や吉五郎はいずれも格好いいです。特に堅物の吉五郎は活躍の場に恵まれませんでしたので,今後に期待をしたいと思います。麻之助は一言でいえば“もどかしい”といった感じ。飄々とした切れ者という設定自体は好みなのに,その子供じみた発想や行動が受け容れ難いのです。〈しゃばけ〉の若旦那が何処か前向きなのに対して,麻之助ははっきりと後ろ向き。過去に捉われて,未来が見えていない感があります。割り切れない現実を割り切ってこそ光が見えてくると思うのですけれど。この辺りは若旦那の方が好きかな。麻之助の心が変わりゆくことを願っています。

 期待以上とは言えませんが,楽しむことの出来た作品でした。続篇にも期待しています。ただ,やっぱり〈しゃばけ〉との明確な差異を打ち出したほうがいいように思います。また,存在は魅力的なのだけれど,立ち位置が微妙な悪友ふたりと麻之助との関係が気になるお寿ずの今後も気になります。江戸っ子としての粋を前面に押し出した物語を読みたいものです。
posted by 森山 樹 at 20:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 感想
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