2010年08月31日

若竹七海『遺品』

〈2010年感想32冊目〉
遺品 (光文社文庫)
遺品
  • 発売元: 光文社
  • 価格: ¥ 680
  • 発売日: 2010/08/10

 角川ホラー文庫から光文社文庫に移籍した若竹七海のミステリホラー小説です。自分が読んだのは光文社文庫版。若竹七海は大好きなミステリ作家のひとりなのですが,最近新刊を出してくれないのが気がかりです。特に葉崎市を舞台とした一連の作品が大好き。とりあえず,気長に待ちたいと思います。

 人間の悪意に満ちた感情が楽しめるミステリホラー小説です。如何にも若竹七海らしい毒気がたまりません。超自然的な恐怖現象よりも人間の悪意と妄執のほうが遙かに恐ろしいというのは余りにも皮肉な結論かと思われます。主人公は伝説的女優兼作家の曾根繭子に纏わる膨大な蒐集物の整理をすることになった失業中の学芸員“わたし”。彼女が葉崎市の出身であるというのが嬉しい。また,何処か箇所は記憶にありませんが,新国市という地名も出て来た筈。此方は若竹七海の初期の作品に頻出した地です。最近は登場しませんが,彦坂夏見ともいつか再会をしたいものです。話が逸れましたが,上記のように若竹七海作品に触れてきた読者には楽しい趣向が用意されています。物語としても充分に面白く意外性のある展開が存分に楽しめます。若竹七海好きには勿論のこと,万人にお薦めできる作品かと思います。

 基本的にはホラー小説なのですが,個人的には曾根繭子の遺品を整理する主人公の奮闘ぶりが実に楽しめました。展示に向けての創意工夫,そして彼女の仕事を妨害する周囲とのやり取りがたまらなく面白いのです。ちなみに恐怖要素としては超自然現象よりも狂気に満ちた蒐集癖の方にこそ感じてしまいます。自分の中に然程の蒐集欲がない為か生理的な嫌悪感を覚えてしまうのですよね。特に主人公が蒐集物の入った箱の中から一頁一頁に髪の毛が貼り付けられたスクラップブックを見つけた場面では吐き気を催しそうになりました。“わたし”を見舞う怪現象の真相も余りに利己的で偏執的なもの。この粘着質の澱んだ雰囲気が古びた洋館ホテルには似つかわしい。そして,対照的にさっぱりとして小気味の良い“わたし”に好感を抱きます。勿論,若竹七海らしく人間の無意識の悪意もふんだんに用意されており,特にそれは日下克枝の描写に顕著に表れています。嫌な人間を描かせれば,若竹七海の右に出る人はいませんね。と言うよりも,登場する人物がごく一部を除けば人格が破綻しているというのが素晴らしいです。彼らの傍若無人に無神経な言動を目の当たりにすれば,此方が発狂してしまいそうです。尤も,こういった困った人間の言動に触れることが若竹七海作品の楽しみのひとつではあります。我ながら悪趣味だとは思いますが。

 やや結末が唐突で弱い感じを受けるのは残念ですが,素直に楽しめる作品でした。後味は微妙に悪いのですが,幾許かの爽快感もあります。最終盤での意外性のある展開は好み。しかし,いささか割り切れない感慨も残ります。狂気を帯びた妄執こそが人間に恐怖を与えると言う意味合いでは実に正統派のホラー小説と言えると思います。
posted by 森山 樹 at 21:49| Comment(2) | TrackBack(1) | 感想
この記事へのコメント
なるほど。
今度、読んでみます。

今、『ぼくのミステリな日常』を読んでいます。
2話目です。

葉崎シリーズはあと「DC」を残すのみです。
マコがすきなのは、葉村晶シリーズです。
是非、続編を期待しています。

駒持警部補・・・がんバレェー!
Posted by 春日真琴 at 2012年05月08日 23:04
>春日真琴さん
葉村晶シリーズは私も大好きです。
早く続きが読みたいですね。
葉崎シリーズも忘れた頃に刊行されるからなあ。
いろいろとアンテナを張っておかないと見逃してしまいそうです。
Posted by 森山 at 2012年05月11日 08:15
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