2011年12月04日

小路幸也『ブロードアレイ・ミュージアムの』

〈2011年感想30冊目〉

 1920年代のニューヨークを舞台とした連作短篇ミステリィ小説。題名通りに博物館が舞台となります。と言っても,普通の博物館ではなく秘密が隠されている不思議な博物館というのが個人的には嬉しい。小路幸也の作品はこれが初めての読書となりますが,こと本作に限って言えば雰囲気は好み。機会があれば他の作品にも触れてみようと思います。

 ニューヨークの裏通りに佇む小さな博物館ブロードアレイ・ミュージアムとそこで暮らす学芸員たちの姿を描く連作ミステリィ短篇集。作品全体を貫く謎も用意されているのが嬉しい。何よりも個性豊かなブロードアレイ・ミュージアムの面々が楽しくてなりません。語り手となるのは新たに学芸員として採用されたエディことエドワード・ウィルミントン。他には巨漢のブッチや謎めいた美女メイベル,色男のバーンスタイン,物静かなモースに看板娘のお嬢様フェイらが物語を彩ります。個人的にはやはりメイベルがお気に入り。お姉さんお母さんとしての役割を存分に担ってくれます。但し,彼女が背負った過去は悲しみに満ちたもの。彼女に限らず,ブロードアレイ・ミュージアムに集った面々は何かしら重たい事情を背負っています。それは天真爛漫なフェイとて同じこと。寧ろ,フェイこそが物語の中心となると言っても過言ではありません。また,ブロードアレイ・ミュージアムの面々以外にも魅力的な人物が登場します。例えば,バー・グッドナイトの主人バトラーや情報屋のグッディ,ギャングのボスであるララディなども忘れ難い人物です。一応は語り手であるエディが主人公ということになるのでしょうが,本来の主人公はブロードアレイ・ミュージアムとそこに関わる人々全員ということになるのでしょう。また,ベーブ・ルースやリンドバーグなど時代を代表する人物に所縁の品が扱われるのも大変にお気に入り。安易な時代設定というわけではなくて,時代性を上手く活かしているところに好感を持ちます。

 収録されている作品は全部で5篇。これに文庫版ボーナストラックとして1篇が追加されています。どれもお気に入りの作品なのですが,敢えて上げるならば男同士の友情が熱い「ラリックのガラス細工」かなあ。ブロードアレイ・ミュージアムの面々が苦心して織り上げた策略によって誰も不幸にならない結末が導かれるのが見事。余韻が素敵です。これとは逆に「シャネルの0番」は悪党にきつい鉄槌を下すお話。未然に悲劇を回避し,悪党には罪に相応しい罰を下す様が素晴らしい。「サッチモのコルネット」はエディがブロードアレイ・ミュージアムを訪れてから最初に出くわした事件。バーンスタインの亡き妻に対する想いが切ない。全てを分かった上で敢えて茶番に乗ったララディの格好良さも光ります。ララディは「ベーブ・ルースのボール」にも登場。このときは端役ですが,存在感は充分。「リンドバーグの帽子」はフェイの秘密が明かされる最終話。様々な伏線が解消されます。ただ,本当に読みたい部分が割愛されているのが残念でなりません。語り手がエディという立場上仕方がないことかもしれませんけれども。また,ブロードアレイ・ミュージアム館長のE・Gも登場。ただ,彼については謎のままで良かったのではないかという気がします。ちょっと興醒め。モースの正体は意外過ぎましたけれどね。「ドラキュラのマント」は後日談も兼ねたお話。まあ,ボーナストラックということでごく掌編ですが雰囲気は楽しい。「リンドバーグの帽子」で綺麗に物語は完結しているので続きは難しいかなあ。ちょっと読み足りなさを感じてしまいます。それくらいで終える方がいいのかもしれませんけれども。

 大変に満足した作品でした。物語も登場人物もいずれもお気に入り。博物館が舞台というのがやはり個人的にはそれだけで好感を得てしまいますね。最後はいささか御都合主義にも思えるけれど,それもまた悪くありません。設定は漫画っぽくて非現実的なのに,それでも非現実さをあまり感じさせないのが作者の腕前かなあ。軽めの謎と温かな語り口が妙に癖になる作品です。続篇を望みえないのが,残念に思ってしまうお話でした。こういう作品は大好きですね。
タグ:小路幸也
posted by 森山 樹 at 14:50| Comment(0) | TrackBack(0) | 感想
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