2007年09月19日

贋作「ししのたてがみ」

(前略)
 異様な光景が私たちの目に入った。テーブルの上には蔽いをなかばあけた角灯があって,扉の半開きになった鉄の金庫を明るく照らし出している。このテーブルの傍らの木の椅子に,ねずみ色の長い化粧着をまとったグリムズビー・ロイロット博士が,素足に赤いスリッパを引っ掛け,踝をのぞかせてすわっていた。彼の膝には昼間見かけた,短い柄に長い革のついた鞭がのっている。博士は顎をそらせて,天井の一角を硬直した目つきで睨んでいるのだ。顔のまわりにはまさしく獅子のたてがみをむしり取ったとしか思えない,もつれた毛のかたまりのようなものがまとわりついているのだが,これは彼の頭をしっかりと巻いているもののようだった。私たちが入っていっても,彼は物音ひとつ立てず,身動きひとつしなかった。
「たてがみだ! 獅子のたてがみだ!」ホームズがささやいた。
 私は一歩前に出た。するとそのとき,奇妙な毛のかたまりが動き出して,博士の髪の間から黄色い房に銀色の筋のまじった毛むくじゃらなものが,にゅうっとあらわれ出た。
「キュアネア・カピラータだ」ホームズが叫んだ。「サセックスでもいちばん危険なクラゲだ。博士は刺されて十秒足らずで死んでいる。暴力は振るった人間にはねかえってくるというのはほんとうで,他人に落とし穴を掘るものは,自らその穴に落ちるのだ。さあ,このクラゲを巣へ追い込んで,ストーナーさんに安全な場所へ移ってもらい,それから州警察へこの出来事を届け出ることにしよう」
 こう言いながら,彼は死人の膝からすばやく犬鞭を拾って,その輪差をクラゲの触手にまわし,そのおそろしい止まり木から追い立てると,できるだけ腕をはなして運んで行き,金庫の中に投げ込んで扉を閉めた。
 (後略)
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 シャーロック・ホームズ譚の「まだらのひも」の一部を「ししのたてがみ」と入れ替えたものです。他の部分も書いては見たんですが,この部分が一番面白いような気がします。何気に違和感がないと思うのですが,どうか。
 これを考えたのは高校生の頃。ろくでもないことばかり考えていました。あの頃からまるで成長していないなあ。

 なお,上記の文章は阿倍知二訳の創元推理文庫版をぱくって来たものであることを明示しておきます。
posted by 森山 樹 at 19:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 雑文
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