2007年12月02日

ジル・チャーチル『夜の静寂に』

2007年87冊目
夜の静寂に (創元推理文庫)
夜の静寂に
  • 発売元: 東京創元社
  • 価格: ¥ 798
  • 発売日: 2004/02

 久々に一冊の本を読了することができました。密かに目標だった年間100冊の感想は少し厳しいかな。過去最低の読書ペースですね。仕方がない部分もあるのですけれど。
 最近,第四作目も出たジル・チャーチルの作品。表紙のイラストがいいよね。ロバートとリリーの雰囲気がよく出ています。

 『風の向くまま』に続く≪グレイス&フェイヴァー≫シリーズの第二作目。大恐慌時代のアメリカの片田舎ヴォールブルグ・オン・ハドソンを舞台としたミステリですが,作中にフーヴァー大統領やフランクリン・ルーズヴェルト,エレノア・ルーズヴェルトら当時の政治家たち,またアメリア・イアハートにチャールズ・リンドバーグと時代を代表する英雄たちの名前が現れるのも雰囲気を醸し出していて嬉しいところ。特にリンドバーグジュニア誘拐事件はこの作品にも大きく影を落としています。
 相変わらず貧乏に悩まされながら,それでも田舎暮らしに染まっていくブルースター兄妹の姿が素敵。特に聡明で苦労性の妹リリーは大のお気に入り。昔の恋人の登場に心乱される姿が可愛くて可愛くて。一見したところ,軽薄な美青年だけれども,その裏に妹以上の知性を秘めている兄ロバートとのコンビが本当にいいのよ。第一作目ではそれほど発露していなかった登場人物たちの個性がこの第二作目に到って確立されてきたように思います。また,プリニー夫人の手がけるオランダ風家庭料理の数々が本当に美味しそう。読んでいるだけで,お腹が空いてきて,このシリーズのささやかな魅力のひとつにもなっています。それから今巻で登場してきたフィービー・トゥインクルもなかなか可愛らしい女性。屋敷の下宿人となったことで,次作以降での活躍が期待できそうです。
 事件自体は前作同様にごく他愛のない殺人事件。真相にそれほど意外性があるわけでもなく,予定調和的な展開に終始しています。ですから,ミステリとして読めば不満も感じるのですが,それでもこのシリーズが面白いと言い切れるのは,作品を通じて流れる雰囲気が好きだから。主人公のブルースター兄妹は元上流階級で,現在は没落した境遇にあるのですが,そこに悲愴感を微塵も感じさせないのです。だからこそ,安心して楽しむことができます。
 大伯父の遺言により屋敷や財産が兄妹のものになるには10年を過ごさねばなりません。まだまだ先は長い状態。これから先,屋敷が彼らのものとなるまでに如何なる騒動が起こるのか。そしてそれをロバートとリリーはどのように乗り越えていくのか。設定の性質上,作品の舞台が屋敷とその周辺に縛られてしまうのは仕方のないところですが,これをどのように飽きさせずに読ませるかが作者の腕の見せ所。楽しみにしています。
posted by 森山 樹 at 22:08| Comment(0) | TrackBack(0) | 感想
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